第12回
・伝説の「猪木vsアリ」戦を振り返る
・化石怪獣ステゴン登場

東風力研究所だより(その12)

「燃えろ!新日本プロレス」
DVDでよみがえる名勝負
コレクションエクストラ
(集英社)より
今日は1976年に行われた「アントニオ猪木vsモハメド・アリ」戦とは何だったのか、私なりに振り返ってみたい。
プロレスはコアなファンが多く、団体や選手に対する思い入れも激しいので、間違ったことを言ったら総スカンですよ。
馬鹿者。「猪木vsアリ」はそもそもプロレスではなく、我が国で初めてガチンコ、つまりリアルファイトで行われた異種格闘技戦と言われている。
当時の評判は散々だったと聞いていますが・・・
うむ。土曜日の午前11:50に始まった試合を、なぜだか学校で観た記憶がある。私は中学生だったのだが、当時は正直、つまらないとしか思わなかった。猪木は寝転んでアリの足をねらったローキックを出すばかり、アリも挑発はするが防戦一方で、ほとんど有効打がない。15Rずっとそんな調子だったからな。学校でも大ブーイングで、アリの「イノキ(イズ)ガール!」が流行ったくらい。ジャイアント馬場の全日本プロレスより猪木の新日本プロレス贔屓だった私が最も興奮した試合は、「猪木vs鉄人ルー・テーズ」(1975年)で、次に「猪木vs人間風車ビル・ロビンソン」(同)だったのだが、それらの試合に比べて本当に色褪せて見えた。アリのパンチで前半ぼこぼこにされた猪木が、一瞬の隙をついてドロップキック連発からのコブラツイストまたは卍固めでアリがギブアップ、そうなると信じていたからな。
猪木の試合は、モハメド・アリ戦の他に、猪木が目に指を入れたことで知られる韓国の巨人パク・ソンナン戦、猪木が腕をへし折ったパキスタンの英雄アクラム・ペールワン戦の3試合(何れも1976年に開催)だけがガチンコ、つまりセメントマッチで、その他の試合は全て、シナリオ通りに進行するショーとしての「プロレス」だったという人もいます1)。だから、教授が好きという2試合も、演出に沿ったものだったのかもしれませんよ。

アントニオ猪木vsモハメド・アリ40周年記念特別号
「猪木vsアリ40周年異種格闘技戦の記憶」(ベースボール・マガジン社)より
「事実は小説より奇なり」と言うが、小説より奇なる事実がそんなにある筈がない。単刀直入に言うと、リアルファイトのボクシングなんかと比べて、プロレスは面白い試合が多すぎるということだ。だから、世紀のイベントである猪木vsアリ戦がなぜ、リアルファイトで行われ、当時はファンやマスコミに受け入れられない試合内容になったのか、私には長い間、分からなかった。野球の日米対抗戦なんかでも、メジャーが日本に呼ばれることはあっても、日本がアメリカに呼ばれることはない。興行とはそういうもんで、上位に位置づけられるものが金儲けのために下位の国にやってくる。メジャーのチームが日本で、怪我を恐れず本気で野球やってるのなんか見たことないもんな。アリも完全にこのパターンだから、本人はエキシビジョンマッチのつもりで来たのだろう。だから、リアルファイトを仕掛けるとすれば猪木サイドしかなく、興業の成功よりファイター、あるいはレスラーとしての思いが勝ってしまったんだろう。
アリ側は猪木の本気度に慌てて、猪木に不利なルールを押しつけたり、当日はアリの拳をセメントで固めていたなんて話も聞きましたが・・・
ルールの話は、猪木に近い筋から作り話だったと暴露されている2)。アリはその言動や取り巻きから誤解されがちだが、一流のアスリートであることは間違いないし、私としては正々堂々と受けた結果が、あの一見、凡戦に見える試合になったと信じたい。猪木がタックル上手だったら、アリを組み伏せたはずという意見もあるしな。
今、試合を改めて観ると、アリのサービス精神旺盛ぶりが楽しいし、猪木も思ったほど寝転んでませんね。両者ナイスファイトじゃないですか。
うん。アリは左足に重傷を負い、選手生命を短くしたが、最後まで倒れなかったのは立派だ。猪木も強い者同士が対峙したら、ああいう戦い方になるということを初めて見せてくれた訳だしな。しかし、リングサイド席が最高30万円、最も安いチケットでも5千円という価格設定だったそうなので、私同様、ハラハラドキドキの「プロレス」を期待していた、日本武道館の観戦者たちの怒りは凄まじかっただろうな。
1)「完本 1976年のアントニオ猪木」(著者:柳澤健、文春文庫)
2)同上、「アサヒ芸能」(2002年1月31日号)(徳間書店)の新間寿手記より引用とある。
■猪木VSアリ 戦いの記録
映像出典:全て「燃えろ!新日本プロレス」DVDでよみがえる名勝負コレクションエクストラ(集英社)より
1R 2R 3R
1R:ゴングと同時に突進しスライディングキックを仕掛ける猪木。
2R:舌を出して挑発するアリ。
3R:猪木のアリキックが太もも裏にヒット。
4R 5R 6R-1
4R:ニュートラルコーナーに追い詰められるアリ。ロープによじ登って猪木の攻撃をかわす。
5R:アリキックがヒットし、ついにアリが尻もち。
6R-1:猪木の足を取ろうとするアリ。
6R-2 7R 8R
6R-2:このチャンスに猪木はアリを組み伏せるが、アリはロープを掴みブレーク。猪木はアリの顔面にヒジ打ちを見舞う(減点1)。
7R:アリの本日初の左ジャブが猪木をかすめる。
8R:猪木のシューズに何か入っているというアリ陣営の抗議で、なぜかシューズの先端にテープが巻かれることに。
9R 10R-1 10R-2
9R:アリキックがクリーンヒット。アリは大きく態勢を崩すが、踏ん張ってダウンに至らず。
10R-1:アリの左ジャブがついに炸裂。猪木は一瞬ぐらつくが、すぐに反撃。
10R-2:猪木はアリに組み付くが、またしてもアリがロープに逃れブレーク。
11R 12R-1 12R-2
11R:アリは猪木の足首をつかみ捻ろうとする。
12R-1:アリの足の腫れが酷くなり、ゴング前に入念な手当が行われる。
12R-2:左手を上げて猪木を挑発するアリ。
13R-1 13R-2 13R-3
13R-1:頭からアリに飛び込んでいった猪木。アリはブレークの後、舌出しパフォーマンスを行う。
13R-2:業を煮やした猪木が離れ際に、右足でアリの急所に蹴りを入れる(減点1)。
13R-3:怒ったアリはコーナーに戻り、リングを降りる仕草を見せるが、レフェリーの説得で再開。
14R 15R-1 15R-2
14R:獲物を狙う野獣の様なアリの表情。この後、電光石火の左ジャブが猪木を捉える。
15R-1:最終ラウンドでも膠着状態が続く。リング上でけん制しあう両者。
15R-2:猪木はアリキックにこだわるが、最後まで寝技に持ち込むことはできなかった。

終了後、健闘を称えあう両者。
ジャッジは、プロレス側の遠藤幸吉が勝者「アリ」、ボクシング側の遠山甲が勝者「猪木」、主審のジン・ラベールが「イーブン」とし、結果ドローとなった。しかし、遠藤の採点は、全15Rにおいてアリ、猪木ともほとんど満点(5点)をつけるという大雑把なもので、猪木の反則(6R、13R)がなければイーブンとなり、判定で猪木が勝利を収めていたと思われる。しかし、プロレス側のジャッジがボクシング側(アリ)を勝者に推す、逆にボクシング側のジャッジがプロレス側(猪木)を勝者に推すという、少し忖度も考えられるジャッジの妙が、試合終了後に大きな混乱をもたらさず、アリ、猪木の名誉も守ったという点で評価されると思う。
愛すべきロボットたち 第8話「スーパーロボット大回転」

このコーナーは、私の思い出のロボットを紹介するというものですが、今回は異なる趣のものを紹介します。トミーの「スーパーロボット大回転」です。まことに残念なことに、2011年に亡くなられたはぬまあん氏の著書「電動王国」(オーム社)によると、発売時期は1969年、価格は初版が1,000円で、以後2年あまりで120万個を売り上げた人気商品でした。確かに、このロボットは比較的裕福な家庭を中心に、持っている子供が多かった記憶があります。私自身、この手の大型、中型のロボットにはさほど興味がなかったこともあり、当時は保有していませんでした。手持ちの一体は、2015年に定価より安く手に入れたもので、箱付きの完動品です。「電動王国」によると「3号」だそうです。同書に示されている通り、このロボットはただ腕をぐるぐる回しながら歩いているのではありません。転倒時、上体が起き上がって直立状態になる寸前、手首から先が少し引っ込み、手の先端が地面に触れないようになっています。これにより、腕から足への支点移動がスムーズになされ、再転倒を防いでいるのです。当時、このロボットを設計した技術者は本当に偉いと思います。
現在、親が男の子に買い与えるおもちゃは、ゲームソフトを除けば、子供番組とタイアップした完成度の高いものが多いと想像しますが、このロボットのように「なぜ起き上がるのだろう?」といった知的探求心や好奇心を呼び起こすものがどれだけあるのか疑問です。騒々しいロボットの一連の動作を眺めていますと、1960~1970年代に幼少期を過ごした自身の幸福を感じざるを得ません。なぜなら私の場合、おもちゃの分解、別物への再工作を通じて、工学技術者としての基本素養を身に着けたことで、現在の生活が成り立っているからです。


いわゆるマルサン式の歩行で、両足は単二乾電池の電池BOXとなっている。
祝!帰ってきたウルトラマン放送50周年 勝手に記念 ソフビ電動化計画
(No.12 化石怪獣ステゴン)

今回は、第10話「恐竜爆破指令」に登場する化石怪獣ステゴンです。この話は、初代ウルトラマンの第15話「恐怖の宇宙線」の焼き直しの印象があり、怪獣も第35話「怪獣墓場」に登場するシーボーズに雰囲気が似ていますが、怖い怪獣ばかりじゃないぞ、新しいウルトラマンも優しいし子供の味方だぞ、というメッセージを視聴者に送る意味で重要な回であったと考えます。ステゴンも、口からよだれのような溶解液を出して人間を溶かすなど、擬人化されたシーボーズと違ってモンスター感をしっかり出しています。また、初代ウルトラマン、セブンの怪獣を多く手がけた高山良策氏による着ぐるみ造形は素晴らしく、四足とも折り曲げずに歩行するステゴンの生物感は、人間が入っていることを感じさせない優れたものです。
さて電動化ですが、旧ブルマァクのソフビを使用しました。普通の歩行ではステゴンらしさが出ないと考え、携帯電話のバイブ機能と同じ振動機構で歩かせることにしました。振動は、重錘を体内で偏心回転させることで発生します。ソフビの特性を活かして四足の角度を色々と変えることで、前進したり足踏みしたりします。この重錘は、東急ハンズで購入した肉厚の円盤状金属を使用していますが、ギヤのシャフトを通すための削孔作業には本当に骨が折れました。また、眼をLEDで赤く光らせ、顎もがくがくさせることで、ステゴンらしさを演出しています。
写真ー1 写真ー2
写真ー3 写真ー4
写真ー1:ユニバーサルギヤに取り付けた金属製の重錘
写真ー2:重錘の偏心運動を口の開閉にも利用している。
写真ー3:完成後の正面と背面
写真ー4:完成後の裏面。足の角度を自由に変えることで、ステゴンは色々な動きをする。